パンフレットとWebを別々に発注する際の6つの確認事項
この記事の要点
- パンフレットとWebサイトを別々に発注すると、情報の分断によりトンマナのズレや素材の二重コスト、進行の齟齬が起きやすくなります。
- 別々発注でも失敗しないカギは、ブランドガイドラインの事前共有と素材の一括支給、どちらを先に作るかの明確化にあります。
- 印刷の専門性や予算の透明性を重視する場合、あえて制作会社を分ける判断も正当化されます。
- 本文では、別々発注特有の失敗パターンを構造的に解説し、発注前に確認すべき6つのポイントを実務的に展開します。
パンフレットとWebサイトを別々に発注した結果、納品後に両方を並べてみると、まるで別の会社の資料のように見えてしまう場面は、決して珍しくありません。印刷会社が手がけたパンフレットは温かみのある和紙の質感を活かした大きなロゴで、Webサイトは画面に合わせて余白を削ぎ落としたシャープな印象になっていたとしたら。個別にはどちらも正しいデザインなのですが、並べるとブランドの統一感が損なわれてしまいます。
「パンフレットは印刷の専門会社に、WebサイトはWeb制作会社に」と発注先を分けるのは、中小企業や個人事業主にとって自然な判断です。それぞれの分野で高い実績を持つ会社を選べば、品質は担保されるはず。しかし、納品後に両者を並べてみると、まるで別の組織が作ったかのように雰囲気が異なっている。そんな光景は、発注現場では頻繁に見られる構造的な失敗です。
筆者がデザイナーとして関わる中でも、「Webと同じ雰囲気で」と依頼されたパンフレットが、Webサイトとは全く異なる世界観になってしまうケースは、実務ではよくある話です。別々に発注したこと自体が失敗ではないのです。問題は、分断された情報がそのまま各制作会社に流れていく構造にあるのです。
なぜ別々発注でトンマナが崩壊するのか:情報が分断される3つの構造
印刷会社とWeb制作会社が別々だと、両社間でデザイン意図やブランド解釈がすり合わせされないまま並行してしまい、「見た目の統一」が担保されなくなります。「Webと同じ雰囲気で」という依頼は、発注者にとっては具体的に聞こえても、受け手にとっては色の再現(CMYKとRGB)やフォントの選択基準、さらには余白のルールまで解釈が分かれるものなのです。
構造① 写真撮影の二重発注と素材の使い回し
別々に発注すると、写真撮影が二重に発注されてしまうリスクがあります。パンフレット用に社員撮影を終えた後、Web側から別の雰囲気の写真が必要だと言われ、撮影予算が2倍に膨らんでしまったという事例は、実務には珍しくありません。実際には、印刷用に撮影した高解像度データをWeb用に変換すれば十分だったのですが、「Webは別の会社が担当だから」と情報が分断され、現場で二重投資が起きていました。
実務では、パンフレット用に撮影した写真をWebサイトでも使い回せるかどうかは、解像度と色空間が課題となります。印刷用の高解像度データ(350dpi・CMYK)はWeb用(72dpi・RGB)に変換すれば使えますが、逆は困難です。撮影時に両用途を想定したサイズ指定を指示し、データ権利も契約で確認すべきです。
構造② ロゴやカラーの解釈違い
パンフレットとWebサイトでブランド統一感が崩れる典型的なパターンは、ロゴのサイズ感や余白のルールが共有されていないことです。印刷会社は紙面の視認性を優先してロゴを大きく配置し、Web制作会社はスマートフォンの小さな画面に収めるため余白を最小限に抑える。どちらも媒体に応じた正しい判断だったのですが、共通の余白ルールが共有されていないために、ブランド統一感が崩れてしまいました。同じロゴを使っていながら、まるで別のブランドのように見えるのです。「なんとなく」は通じないので、数値とサンプルで示すことが重要です。
構造③ 進行管理の二度手間と齟齬
別々の制作会社に同時進行で依頼すると、2社への個別オリエンテーション、中間確認の2回化、修正フィードバックの橋渡しが発生します。会社案内を発注してから手元に届くまで約1〜3カ月が必要です。また、採用パンフレットの場合は使用タイミングの4〜5ヶ月前が目安です。これが2社分並行すると、発注者が事実上のディレクター役を担う必要があり、内部リソースの消費は想定以上になります。同じ原稿の背景や意図を2度説明し、それぞれの質問に個別に答え、最終的な仕上がりを双方で微調整する。これが別々発注で最も工数が増えるポイントです。
別々発注が向くケースと、一貫制作が向くケースの判断軸
一貫制作が最適なのは、ブランディングの統一を最優先し、担当者の工数を減らしたい場合です。一方で、パンフレットには印刷の専門性、WebにはUI/UXの専門性を求める場合、分ける判断も正当化されます。予算・工期・内部リソースの3軸で、自社にとっての最適解を選ぶ必要があります。
あえて制作会社を分けるメリットがある場面
制作会社を分けることに、むしろメリットがあるケースは合理的です。
1つ目は、印刷の専門性とWebのUI/UX専門性を両方極限まで求める場合です。パンフレットには紙の特性(用紙、加工、色再現)を熟知した印刷会社のノウハウが、Webにはレスポンシブ対応やSEOを得意とする制作会社のスキルが必要です。一社で両方を得意としているケースは少なく、どちらかに寄せると品質が偏ります。
2つ目は、予算の組み上げ方が異なり、別々に見積もった方が透明性が高い場合です。パンフレットデザインの相場はA4サイズ8ページで35〜80万円ほどの幅があり、要件を絞った場合には5〜8万円前後という事例もあります。Webサイトは10〜20ページで50万円〜200万円前後です。条件(ディレクション・撮影・原稿制作込みか否か、修正回数の想定差など)によって差が大きいため、自社に最適な組み合わせを選びたい場合です。この差が出るのは、ディレクションや撮影、原稿制作が込みかどうか、修正回数の想定が異なるためです。また、ロゴデザイン等の単品依頼では、フリーランスは8万円台が目安になりやすく、大手は14万円前後が中央値というデータもありますが、パンフレット全体のデザインとは要件が異なります。
3つ目は、既存の取引関係や業界特化のノウハウがある場合です。長年取引のある印刷会社が社内のブランドを理解しているのであれば、そこにパンフレットを任せ、Webだけ別の専門会社に任せるという選択も有効です。
一貫制作を選んだ方が確実なケース
ブランドの顔となるトップページと表紙・見開きのデザイン方針を最初に固めたい場合、一貫制作が有効です。Webから資料請求して届いたパンフレットのデザインがWebとは全く別デザインだった場合、ユーザーは違和感を覚えます。総務・人事担当が通常業務と並行して進めることが多いため、一貫制作であれば担当者の手間・工数・コストを抑えられます。一社との窓口だけで済むことは、内部リソースが限られている場合に大きなアドバンテージです。
パンフレットとWebサイト、どちらを先に作るべきか
別々発注の場合、制作順序を決めないと後発のメディアが前発のデザインを無理に流用・加工し、品質が低下します。「パンフレット Web 制作 順番」という悩みは、別々発注を検討する人にとって非常に現実的な問いです。
Web先行が有効なケースと紙先行が有効なケース
Web先行の場合、情報設計の上流をWebサイトで先行させ、紙で濃縮するパターンが多いです。Webの構造を先に固めることで、紙メディアに必要な情報の優先順位が明確になります。検索流入を意識した情報設計をWebで行い、その中からパンフレットに載せるべき核心だけを抽出するのです。
一方、採用パンフレットなど、紙の冊子としての完成度が採用ブランディングの核になる場合は、紙先行も有効です。イベント配布用のパンフレットが先行し、その世界観をWebに展開する形です。紙先行で後からWebを無理に縮小した結果、スマートフォンで文字が潰れて読めなくなったというトラブルは、並行進行の現場では見受けられます。
どちらが正解かではなく、自社のコミュニケーション戦略上どちらが「種」になるかを決めることが重要です。
並行制作をする際の進行管理の注意点
制作順番を決めずに並行すると、後発側が「既に進んでいる方に合わせる」ことで無理なデザイン加工が生じ、両方の品質が損なわれます。どちらか一方を先に完成させ、そのトンマナを「種」にして後発を作る順序を決めることが最優先です。
また、Webとパンフレットを同時進行で依頼し、双方にそれぞれのペースで進めてもらった結果、先に進んでいた印刷会社の横長ビジュアル構成を、Web側が無理に画面幅に流用しようとしてレスポンシブ表示が崩れ、最終的に双方が妥協した中間的なデザインになってしまうケースもあります。並行して進める場合でも、クリエイティブの方向性を確定させるタイミングは必ず同期させる必要があります。
別々発注で失敗しない6つの確認事項
ブランドガイドラインがない状態で依頼すると、成果物のイメージが食い違い修正コストが増大します。原稿・写真素材の権利帰属、納品データ形式(AIやPSD、HTMLなど)、修正回数の上限を契約前に確認し、進行スケジュールと連絡窓口を一元化することが鍵です。「別々発注 チェックリスト」として、以下の6つを発注前に必ず確認してください。
① ブランドガイドラインを制作会社間で共有する
「ブランドガイドライン 制作会社間 共有」の具体的な方法として、最低限ロゴデータ(ベクター)、指定カラー(カラーコードとCMYK値)、使用フォント、レイアウト参考例を1枚の資料にまとめ、両社に同時に共有してください。たとえば「青」ではなく「#003399、C100 M60 Y0 K0」と明示し、紙面と画面の両方で共通の基準を持たせます。社内にデザインの知見がなくて不安であれば、最初に「ブランドの最小限のルール」だけを外部デザイナーに整理してもらう選択肢もあります。費用は5〜10万円程度で抑えられることもあり、のちの修正コストを考えれば安い投資です。
② ロゴデータはベクター形式で手配する
ロゴデータは、拡大縮小しても劣化しないベクター形式(AI、EPS、PDFなど)で手配してください。ビットマップ形式(JPGやPNG)の場合、印刷用に拡大した際にボケてしまい、Web用に縮小した際に細部が潰れてしまいます。両社に同じベクターデータを渡すことで、サイズ感は媒体に応じて調整されても、ロゴの品質は統一されます。
③ カラーコードはRGB・CMYK・HEXで明示する
紙と画面では色の再現方法が根本的に異なります。印刷はインクの重ね合わせ(CMYK)、画面は光の三原色(RGB)です。そのため、両社に共通の基準を持たせるには、カラーコードを数値で明示することが必要です。企業色をHEX(Web用)とCMYK(印刷用)の両方で記載し、場合によっては実際の紙に印刷した色見本(実寸サンプル)を渡すと、認識のずれを防げます。
④ 写真素材の権利とデータ形式を契約時に確定させる
写真素材の権利帰属、使用期間、使用範囲は契約時に必ず確定させます。納品データ形式も事前に確認し、印刷用にはIllustrator(AI)やPhotoshop(PSD)のレイヤー状態、Web用にはHTML/CSSの納品かデザインデータのみかを明確にします。後から「編集できないデータだった」と気づくと、別の会社での修正が不可能になります。
また、Web用に撮影した写真をパンフレットに使うのは難しいことが多いです。Web用に撮影された写真は、解像度が72dpi・RGB色空間のことが多く、印刷に必要な350dpi・CMYKへの変換は画質劣化を伴います。撮影時から両用途を想定したサイズ指定を行い、データの権利も契約で確認すべきです。
⑤ 納品データ形式と修正回数の上限を事前に合意する
パンフレットの納品データが画像のみのPDFだった場合、他社が文字修正を行うことができません。WebサイトのデザインデータがFigmaやSketchのファイルで、開発環境が異なる会社に渡る場合も、再現性の問題が生じます。納品形式は「誰が」「どこまで」を想定して決めてください。また、修正回数に上限を設けることで、双方の認識を合わせ、無限ループを防ぎます。
⑥ 進行スケジュールと連絡窓口を一元化する
進行スケジュールと連絡窓口を一元化し、2社間の情報伝達を発注者がコントロールする仕組みを作ります。たとえば、A社のデザイン確認後にB社にフィードバックを渡す際、そのまま転送せず自分の言葉で統一した指示に翻訳してから伝えることが重要です。会社案内を発注してから手元に届くまで約1〜3カ月が必要で、採用パンフレットの場合は使用タイミングの4〜5ヶ月前が目安です。2社分のスケジュールを調整し、クリエイティブの方向性を確定させるタイミングを同期させることが、品質を左右します。
よくある質問(FAQ)
Q. ブランドガイドラインがない場合、別々発注でトンマナを統一する方法はありますか?
最低限、ロゴデータ(ベクター)、指定カラー(カラーコードとCMYK値)、使用フォント、レイアウト参考例を1枚の資料にまとめ、両社に同時に共有してください。社内にデザインの知見がなくて不安であれば、最初に「ブランドの最小限のルール」だけを外部デザイナーに整理してもらう選択肢もあります。費用は5〜10万円程度で抑えられることもあり、のちの修正コストを考えれば安い投資です。
Q. Web用に撮影した写真をパンフレットに使えますか?
難しいことが多いです。Web用に撮影された写真は、解像度が72dpi・RGB色空間のことが多く、印刷に必要な350dpi・CMYKへの変換は画質劣化を伴います。撮影時から両用途を想定したサイズ指定を行い、データの権利も契約で確認すべきです。
Q. 予算の都合で一貫制作が難しく、別々に頼むしかありません。どこを優先すればいいですか?
ブランドの顔となるトップページと表紙・見開きのデザイン方針を最初に固めます。残りは後から合わせられます。どちらか一方を先に完成させ、そのトンマナを「種」にして後発を作る順序を決めることが最優先です。
Q. 別々の制作会社に同時進行で依頼すると、どこで工数が増えますか?
2社への個別オリエンテーション、中間確認の2回化、修正フィードバックの橋渡し、最終的な仕上がりの微調整が主な増加工数です。発注者がディレクター役を担う必要があるため、内部リソースが確保できない場合は一貫制作を検討すべきです。
Q. パンフレットとWebで「同じフォント」を使うべきですか?
原則として統一感を重視して同じフォントを指定するのが良いですが、紙と画面ではフォントの見え方やライセンス体系が異なります。特にWebフォントは閲覧環境によって表示が変わるため、「同じ系統のフォント」で揃える現実的な妥協も有効です。重要なのは、両社に「フォントファミリー名とウェイト(太さ)」を明示し、紙とWebでそれぞれ最適化した使い方を許容するかどうかを事前に統一することです。
Q. ブランドガイドラインの作成は、誰に依頼すればいいですか?
デザイン会社やブランディング会社に依頼するのが一般的です。すでにロゴ制作を依頼しているのであれば、その延長で基本ルールをまとめてもらうとスムーズです。社内で作成する場合は、広報担当とデザイナーが共同で「ロゴの最小サイズ・カラーコード・余白ルール」を1枚にまとめるだけでも、外部への発注精度は大きく変わります。
まとめ:別々発注のリスクを機会に変える3つの準備
別々発注はリスクではありますが、ブランドガイドラインの整備や素材管理の徹底という社内資産を磨く機会にもなります。発注前に「共有すべき情報」「決めておく順序」「確認すべき契約項目」を準備すれば、トンマナの統一は十分に実現できるのです。
制約の中でどう価値を生むかを考えることで、外注先との連携力も高まります。焦らず、一つずつ準備を整えてください。
デザイン・制作のご相談について
ABABO DESIGNは、フライヤー・パンフレット・ロゴなどの印刷物からWebサイトまでを一貫して手がけるデザイン事務所です。「何を伝えるか」を整理する段階からご相談いただけるので、内容が固まっていなくても大丈夫です。中小企業の広報・採用・ブランディングの実情に合わせて、無理のない進め方をご提案します。




