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2026.08.18グラフィックデザイン

会社案内を採用と営業で兼用する判断基準とつくり方

この記事の要点

  • 会社案内・営業パンフレット・採用パンフレットは、読み手も目的も異なる別物です。
  • 兼用するかどうかの判断基準は「年間の制作予算」と「今、営業と採用のどちらが急務か」の2つです。
  • 兼用型のページ配分は8ページ・16ページ・20ページの3パターンがあり、営業6割・採用4割程度を出発点にして、印刷後の反応を見ながら調整するのが実務的です。
  • 予算が厳しい場合は、本体を共通仕様にしたうえで差し込みリーフレットやPDFの出し分けで補強する方法があります。
  • 厚生労働省の統計では新規学卒者の3年以内離職率が上昇傾向にあり、採用向け情報が手薄なことは将来的な採用コストのリスクにつながると考えられます。

会社案内・営業パンフレット・採用パンフレットは何が違うのか

結論から言います。会社案内・営業パンフレット・採用パンフレットは、同じ「会社を紹介する印刷物」でも、読み手が知りたい情報がまったく違います。

  • 会社案内: 会社そのものの概要を伝える冊子で、いわば名刺の延長です。
  • 営業パンフレット: 商品・サービスの導入を検討している取引先向けで、発注リスクを下げる根拠を示す資料です。
  • 採用パンフレット: 入社を検討している求職者向けで、働くイメージを伝える資料です。

取引先が知りたいのは「この会社に発注して大丈夫か」という信頼性で、事業内容・強み・導入実績・数字で語れる成果が優先されます。一方、求職者が知りたいのは「この会社で働いて自分は大丈夫か」という当事者性で、理念やビジョンそのものよりも、社員紹介や働く環境から伝わる具体的な温度感が優先されます。同じ「大丈夫か」でも、判断材料はまったく別物なのです。

筆者が過去に関わった製造業クライアントの案件では、予算の都合で営業用の会社案内をそのまま就職説明会に持ち込んだところ、来場者アンケートに「事業内容や実績はよく分かったが、一緒に働く人がどんな人なのか想像できなかった」という声が複数寄せられました。取引先向けの内容をそのまま流用すると、求職者にとっては「自分ごと」として読めるページがほとんどない、という事態が起きやすいのです。兼用するにしても、最低限求職者向けのページは独立して用意しておく必要があるという実務上の教訓があります。

Webサイト・採用ピッチ資料との役割の違い

Webサイトは情報量に制限がなく、詳細な募集要項やブログを通じた日常の発信に向いています。一方、採用ピッチ資料はスライド形式で企業のストーリーを論理的に語ることに特化しており、説明会でのプレゼンに適しています。これらに対し、紙の会社案内は情報の信頼性と全体像をコンパクトに伝える「入り口」としての役割を担い、対面でのコミュニケーションを補完するものと定義しましょう。

紙媒体ならではの「手触り」と「一覧性」がもたらす価値

デジタル化が進む中でも紙媒体が選ばれる理由は、独特の「手触り」がもたらす安心感と、ページをめくるだけで直感的に全体像を把握できる「一覧性」にあります。説明会などで手渡された冊子は、帰宅後や後日の検討時にも物理的に手元に残るため、検討期間の長い求職者に対して継続的な接点を持つツールとして非常に有効です。

採用向け情報を疎かにすることのコストをどう考えるか

ここで見過ごせないのが、採用向けの情報発信を疎かにした場合のコストです。厚生労働省の公表統計によると、令和3年3月卒業の新規学卒就職者の3年以内離職率は高校卒で38.4%、大学卒で34.9%となっており、大学卒は3年連続、高校卒は2年連続で上昇しています*1

企業規模が小さいほど離職率が高い傾向があるとよく言われますが、その具体的な差を裏付ける公的統計は今回確認できませんでした。ここでは「企業規模が小さいほど離職率が高くなりやすい」という留保つきの理解にとどめておきます。

会社案内が採用のミスマッチの直接の原因になるとまでは言い切れませんが、応募者が入社前に得られる「働くイメージ」の情報が少ないほど、入社後の期待値のズレは大きくなりやすいと考えられます。会社案内を営業用にしか整えず、求職者に働くイメージを伝える情報が薄いままでいると、入社後のミスマッチという形で将来的な採用コストを払う可能性があります。このリスクを踏まえたうえで、兼用の可否を判断していきましょう。

兼用すべきか専用にすべきかの判断基準

判断は感覚ではなく、次の2段階で整理すると迷いにくくなります。

STEP1: 年間の制作予算はどのくらいか

営業用と採用用を別々に用意できる予算があるなら、専用制作を優先しましょう。ターゲットごとに情報を最適化できるため、効果はこちらのほうが高くなります。予算が限られており、今期は1冊しか作れない場合に、STEP2へ進んでください。

STEP2: 自社は今、営業と採用のどちらが急務か、チェックリストで確認する

以下の項目のうち、当てはまるものを数えてみてください。

営業面のチェック項目:

  • 直近半年で新規の商談化率・成約率が落ちている
  • 展示会や商談会への出展予定が3ヶ月以内にある
  • 既存の会社案内が2年以上更新されていない

採用面のチェック項目:

  • 直近の求人で、応募数が目標に届いていない
  • 直近1年以内に離職者が複数名いる
  • 会社説明会や採用面談の予定が近く控えている

営業面のチェックが多く当てはまるなら、営業要素を優先しましょう。営業用の会社案内を先に整え、採用は差し込みリーフレットで併用する運用が現実的です。採用面のチェックが多く当てはまるなら、採用要素を優先すべきフェーズです。可能であれば採用パンフレットを専用で用意し、営業は既存の会社案内で対応する選択肢も検討してください。両方が同程度に当てはまる場合に、はじめて中綴じ兼用型(前半営業・後半採用)の検討に入ります。

大切なのは、兼用は最初の選択肢ではなく、予算と優先フェーズを見極めた結果として選ぶものだという順序です。

兼用型のページ配分テンプレート

STEP2で兼用型を選んだ場合、ページ配分は企業規模や採用の急度によって調整するのが実務的です。以下の比率は、業界で共通して見られる「前半に事業内容・実績、後半に社員紹介・ビジョン」という型を土台にした目安であり、唯一の正解ではありません。印刷後に営業チーム・採用担当それぞれの手応えを聞き、次回の増刷で比率を調整していく前提で使ってください。

パターンA:予算・採用急度が低い場合(8ページ版)

中綴じ冊子は最少8ページから4の倍数でページを増やせる仕様が一般的です。

  • P1〜2: 表紙+会社概要
  • P3〜5: 事業内容・実績(営業向け)
  • P6〜7: 理念・社員紹介(採用向け)
  • P8: 裏表紙

営業要素が全体の6割強、採用要素が4割弱という配分です。制作会社の見積り相場を踏まえると、小ぶりな8ページ冊子であれば10万円前後から着手できるケースが多いようです。ただし発注先やボリューム、取材の有無で大きく変動するため、あくまで目安として捉えてください。

パターンB:バランス型(16ページ版)

  • P1〜10: 会社概要+事業内容+実績+導入事例(営業向け)
  • P11〜16: 理念+社員紹介+座談会+募集要項(採用向け)

前半6割強を営業要素、後半4割弱を採用要素にする、最も汎用性の高いテンプレートです。取引先にも求職者にも「読み進めれば自分の知りたい情報にたどり着く」という構造をつくれます。座談会の取材が入る分、費用感はパターンAよりも上振れしやすく、中規模制作会社の相場観では20万円台に収まることが多いようです。

パターンC:採用が急務の場合(20ページ版)

  • P1〜12: 会社概要+事業内容+実績(営業向け)
  • P13〜20: 理念+社員紹介+座談会+職場環境+募集要項(採用向け)

採用比率をやや高め、社員紹介や職場環境のページを厚くするパターンです。ページ数と座談会取材が増える分、費用感は上限に近づきやすく、内容と規模によっては30万円を超えることもあります。離職率対策として社員の声を丁寧に見せたいときに向いています。

比率を決める際の考え方として、営業側の効果は商談化率の変化、採用側の効果は応募数や内定承諾率の変化で見ていくと、次回のページ配分を調整する基準になります。

求職者視点で考える、共通化できる要素と分離すべき情報

兼用型を作るうえで最も判断が分かれるのが、どこを共通化し、どこを分離するかです。

  • 会社概要(住所・電話・設立年・資本金など): 完全に共通化して問題ありません。営業版・採用版で内容を変える必要がない部分です。
  • 理念・ビジョン: 共通の文章を使えますが、書き方は工夫が必要です。営業パートでは「その理念がどう事業の強みにつながっているか」に紐づけ、採用パートでは「その理念のもとでどんな姿勢で働くか」に紐づけると、同じ理念文でも読み手に響く角度が変わります。
  • 代表挨拶: 完全な統合は難しい部分です。営業向けには事業実績と今後の展望を、採用向けには人材育成方針を、それぞれ数行ずつ盛り込んで1ページの中で両方に触れるか、営業版と採用版で差し替え可能なレイアウトにしておくのが実務的な落としどころです。

一方で、取引実績・導入事例のパートと、社員紹介・座談会のパートは分離が必須です。理由は単純で、実績パートを削って社員紹介に寄せすぎると営業効果が落ち、逆に社員紹介を削って実績に寄せすぎると採用効果が落ちるからです。1ページに両方を詰め込みすぎて、結果的に誰にも刺さらない案内になってしまうのは、デザイン実務でよく見かける失敗パターンです。情報密度が上がりすぎると、取引先にとっても求職者にとっても「結局何を伝えたい会社なのか」が分からなくなります。この2つは共通化できないと割り切ったうえで、ページを分けて優先順位を明確にすることが、兼用成功の分かれ目になります。

もうひとつ、実務上のポイントとして、採用向けページだけは独立して差し替え可能な設計にしておくことをおすすめします。募集要項や社員紹介は変更頻度が高い情報なので、本体と一体成型にしてしまうと、次回の増刷のたびに全ページを作り直す羽目になります。差し替え可能な設計にしておけば、採用状況が変わったタイミングでも柔軟に対応できます。

低予算でも出し分けを実現する実務テクニック

予算がどうしても厳しい場合は、本体を共通仕様にしたうえで、差し込みページやデジタル媒体で出し分ける方法が有効です。冊子まるごとを作り直すより、低コストで対応できます。

差し込みリーフレットの実装方法

本体の会社案内(会社概要・理念・事業内容・実績)を8ページ程度の共通仕様で制作し、採用向けには社員紹介や募集要項をまとめた差し込みリーフレットをA3用紙2つ折り(実質4ページ)で追加する方法です。中綴じ製本の工程では、本体を製本する際にこの差し込みリーフレットを中身に挟み込み、合本状態で納品してもらう形になります。

費用感としては、本体8ページで8万円前後、差し込みリーフレットで2〜3万円前後という組み合わせが目安で、合計10万円程度の予算で本体+採用要素を用意できる計算です。印刷発注の際は「本体のみ500部、本体+採用リーフレット併本300部」というように、営業訪問用と採用説明会用で部数をあらかじめ分けて指示しておくと、無駄な印刷コストを抑えられます。営業訪問時には本体のみを携帯し、採用面談・説明会時には本体+差し込みリーフレットをセットで配布する、という使い分けができます。

PDF・Webページでの出し分け

印刷物を作り直さなくても、PDFデータを営業版・採用版で別ファイルに分けて管理したり、自社の採用ページに社員紹介・座談会コンテンツを追加したりすることで、デジタル上で出し分ける方法もあります。本体の裏表紙にQRコードを配置し、営業版のQRからは「採用情報はこちら」と自社の採用ページへ誘導する、という運用にすれば、印刷費をかけずに情報の粒度を調整できます。紙の会社案内は共通の「顔」として使い、詳細な出し分けはデジタルに任せる、という役割分担が低予算下では現実的な選択肢です。

段階的な補強の進め方として、初年度は営業向けの本体のみを整え、翌年度に差し込みリーフレットやPDF分割配布を追加する、というタイムラインも十分現実的です。

【事例紹介】課題を解決するデザインの視点と構成案

製造業・建設業:技術力と「働く人の体温」を両立させるデザイン

製造現場の技術力を伝える精緻な写真と、職人のこだわりを語るキャプションを組み合わせることで、企業の誠実さと「働く人の温かみ」を両立させます。営業向けには設備のスペックを、採用向けには若手社員の成長ストーリーを強調するレイアウトが効果的です。

IT・サービス業:無形サービスの価値とキャリアパスを可視化する構成

スキルの獲得ロードマップやチームのコミュニケーションスタイルを図解し、無形サービスの価値と将来のキャリアパスを視覚的に表現します。オフィスの雰囲気や柔軟な働き方をダイナミックなレイアウトで紹介することで、カルチャーへの適合性を高めます。

採用フェーズ別の活用フローと具体的な運用ノウハウ

合同説明会・学校訪問:短時間で印象を残す「惹きつけ」の工夫

一目で事業規模と雰囲気が伝わるよう、表紙や見開きページに大きなキービジュアルを配置しましょう。ブースでの滞在時間が短いイベントでも、直感的に「良さそうな会社だ」という印象を残すことが、その後のエントリーに繋がります。

面接・内定フォロー:志望度を高め、辞退を防ぐリマインド活用

面接終了後に手渡すことで、面接中に話しきれなかった文化面や福利厚生の詳細を補足します。内定通知と一緒に再度読み返すよう促すことで、入社への不安を払拭し、内定辞退を防ぐための「信頼のダメ押し」として機能させることができます。

よくある質問(FAQ)

Q. 会社案内は採用パンフレットとして代用できますか?

A. 代用は可能ですが、効果は限定的です。理由は、会社案内が企業の信用と実績を中心に設計されているのに対し、採用パンフレットは働く人の具体的な表情・声・待遇に焦点を当てるため、読み手のニーズが根本的に異なるからです。直近の応募数や内定承諾率に大きな課題がなければ代用でも構いませんが、採用が急務なフェーズであれば専用制作をおすすめします。

Q. 兼用するか専用にするかは何を基準に決めればよいですか?

A. まず年間の制作予算に余裕があるかを確認し、余裕があれば専用制作を優先してください。予算が限られる場合は、営業面と採用面それぞれのチェックリストを見て、当てはまる項目が多いほうを優先し、両方が同程度であれば兼用型を検討するという2段階で判断するのが実務的です。

Q. 会社案内を営業と採用で兼用する場合、ページ配分の目安はありますか?

A. 企業規模や採用の急度によって複数のパターンがあります。8ページ版なら営業6割・採用4割弱、16ページ版でも同程度の比率、採用が急務な場合は20ページ版にして採用要素をやや厚めにする、という調整が可能です。ただしこの比率は出発点であり、印刷後の商談化率や応募数の変化を見ながら次回調整していくものと考えてください。

Q. 予算がない場合、採用向けページだけ後から追加できますか?

A. 可能です。本体を8ページ程度の共通仕様にとどめ、社員紹介や募集要項をまとめたA3の差し込みリーフレット(実質4ページ)を後付けすれば、本体を作り直すことなく数万円程度の追加費用で採用要素を補強できます。

Q. 会社案内を兼用すると採用にどんな悪影響がありますか?

A. ターゲットのずれにより求職者に情報が響かず、入社後のミスマッチにつながるリスクがあります。厚生労働省のデータでは新規学卒者の3年以内離職率が高卒38.4%・大卒34.9%まで上昇しており、採用時点での情報不足がこうしたリスクと無関係ではないと考えられます。

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