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2026.08.31グラフィックデザイン

福祉施設の採用パンフレット|利用者を写さず魅力を伝える方法

この記事の要点

介護業界の人手不足は深刻で、求人サイトだけでは伝わらない職場の空気感を届ける採用パンフレットの価値が上がっています。ただし利用者の写真掲載には個人情報保護の観点から本人・家族への説明と同意確認が実務上必要で、「後ろ姿だから」「顔を隠したから」は同意省略の理由になりません。利用者を写さないという制約は、スタッフの見せ方・空間の演出・イラストの使い分けという構成力で乗り越えられます。掲載すべき項目チェックリストと、制作費用の相場感も本文で確認できます。

なぜ今、福祉・介護施設に採用パンフレットが必要なのか

結論から言うと、介護・福祉業界の人手不足は数字で見ても深刻で、求人サイトへの掲載だけでは採用競争を勝ち抜けない状況になっています。だからこそ、職場の空気感まで伝えられる採用パンフレットの価値が上がっているのです。

介護業界の有効求人倍率と人手不足の実態

介護サービス職の有効求人倍率(2025年5月・原数値)は3.41倍で、全国平均の約1.31倍と比べて2.5倍以上の水準で推移しています*1。求職者1人に対して複数の求人が競合している状態であり、施設側が「選ばれる」努力をしなければ人材確保は難しくなっています。

さらに厚生労働省の推計によると、2025年度には約32万人、2040年度には最大69万人の介護職員が不足する見通しだとされています*2。この数字は一時的な波ではなく、構造的な人手不足を示すものです。今この瞬間から、自施設を選んでもらうための情報発信を積み重ねる必要があります。

求人広告だけでは伝わらない情報がある

求人サイトのテキストは、条件面(給与・勤務時間・資格要件)を伝えるのには向いています。しかし「どんな人が働いているか」「休憩室の雰囲気はどうか」「職員同士の距離感はどうか」といった、応募の決め手になりやすい情報は、テキストだけでは伝わりにくいものです。

紙のパンフレットには、手に取ってじっくり眺めてもらえるという特性があります。求人サイトで条件を確認したあと、家族と一緒にパンフレットを開いて「ここなら安心して働けそう」と感じてもらう。そうした二段階の情報接触を設計できる点が、採用パンフレットの強みです。

福祉施設の採用パンフレットに利用者の写真を載せられない理由

先に結論を言うと、利用者の写真をパンフレットに掲載する場合は、本人または家族への説明と同意確認を行うのが実務上の基本です。「顔が写っていないから大丈夫」という判断は、リスクを見落としています。

なお本記事は一般的な実務慣行を紹介するものであり、個別の掲載可否についての法的判断ではありません。判断に迷う場合は、個人情報保護委員会・厚生労働省の公式ガイダンスを確認するか、弁護士など専門家に相談してください。

個人情報保護委員会のガイダンスが示す考え方

個人情報保護委員会と厚生労働省は、医療・介護事業者向けに「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスに関するQ&A」を共同で公表しています*3。このガイダンスでは、介護保険法に基づく指定基準により、サービス担当者会議などで利用者・家族の個人情報を使用する場合に文書による同意が必要とされる場面があることが示されています。

これは多職種で情報を共有する会議の場面についての規定であり、パンフレットへの写真掲載そのものを直接規定したものではありません。ただし、個人情報保護委員会のFAQには「ホームページや機関誌に利用者の写真を掲載する場合、本人の同意が必要か」という項目が実際に公開されており*4、写真掲載を検討する介護事業者が確認すべき公式な参照先として存在します。回答の詳細な文言は事案ごとに解釈が分かれる部分もあるため、掲載を検討する際は必ず個人情報保護委員会のFAQ本文を直接確認することをおすすめします。

実務では、施設運営の現場でこうした一次情報を毎回読み込む時間が取れないケースも多いものです。だからこそ「入職・入所時に、パンフレットやホームページへの写真掲載についてまとめて同意を取っておく」運用にしている施設が少なくありません。ケアマネジメント支援の現場では、こうした目的で使う「肖像権使用同意書」のひな形も無料で配布されています*5。制作を始める前に、施設側でこの同意書運用があるかどうかを確認しておくと、撮影当日の混乱を防げます。

「利用者を写さない」とはどういう状態を指すか

本記事で「利用者を写さない」というときは、施設の活動シーン(食事介助やレクリエーション風景など)に利用者本人が映り込む写真の掲載を避け、代わりにスタッフの写真・空間写真・イラストで日常を表現することを指しています。

ここで注意したいのが、モザイク処理や顔隠しは「写さない」とは別物だという点です。モザイクをかけた写真は、利用者が写っている写真を加工したものであり、撮影・掲載の時点で本人の姿を捉えていることに変わりありません。同意取得の必要性が消えるわけではないのです。

「顔が写っていなければ大丈夫」という誤解

実務でありがちな誤解が、「後ろ姿だから」「モザイクをかけたから」問題ないという判断です。しかし、体型・服装・車椅子の形状・活動内容の組み合わせから、施設の関係者であれば個人を特定できてしまうケースは実務上少なくありません。これは筆者を含むデザイン実務者が現場でよく耳にする懸念であり、法的に「識別可能な情報に該当する」と断定できるものではありませんが、リスクを避ける目的で同意取得を慣行としている施設が多いのが実情です。

顔が隠れていても関係者が特定できる可能性がある写真は、掲載前に本人・家族へ説明し、同意を得ておくのが安全な進め方です。デザイナー側からも、企画段階で「この写真、誰の同意を取っていますか」と一度立ち止まって確認する姿勢が欠かせません。

利用者を写さずに施設の魅力を伝えるデザイン手法

利用者を写せないという制約は、危機であると同時に、構成力と言葉の力を磨く好機でもあります。筆者が過去に携わった老健施設(介護老人保健施設)の採用パンフレット制作で、まさにこの壁にぶつかったことがありました。

最初の提案では、利用者を一切写さず、スタッフの集合写真と施設外観だけで8ページを構成したのです。しかし施設長からの修正指摘は「スタッフしかいないと、施設として空洞に見える」という一言でした。人がいて、生活があって、ケアが生まれている。その気配が抜け落ちていたのです。この失敗から学んだのが、「利用者を写さない」と「利用者の気配を消す」はまったく別だということでした。

スタッフのカットで「ケアの気配」を伝える工夫

そこで組み直したのが、スタッフの手や動作に焦点を当てる構図です。たとえば、スタッフが利用者の手首をそっと支える手元のクローズアップ、レクリエーション中にスタッフが背後から利用者の肩に手を添える動作の一部だけを切り取ったカットなど、人物の全身ではなく「関係性の一瞬」を写すことで、利用者の存在を感じさせながら本人を特定できる情報は写り込まないようにしました。

構図としては、正面から並んで撮る証明写真的なカットだけに頼らず、動作の途中を切り取ったカットを混ぜることを意識しています。全ページがきれいに整列した集合写真になると「作られた感」が出やすく、実際に前述の老健施設のパンフレットでも、動作中のカットを増やした修正版のほうが施設長・スタッフ双方の評判がよかったという経験があります。

空間・設備の見せ方で「利用者の存在」を暗示する

空間写真も、撮り方次第で「利用者の存在」を匂わせることができます。たとえば、使われた形跡のあるレクリエーション用品、日当たりのよい席に置かれた膝掛け、名前の書かれた靴箱やロッカーなど、「誰かがそこで生活している気配」を残したまま人物を写さない構成です。

何もない整然とした空間だけを撮ると、清潔さは伝わっても生活感が消えてしまいます。実際に前述のプロジェクトでも、施設の廊下だけを撮った写真は「モデルルームのようで冷たい」という指摘を受けました。そこで、食堂のテーブルに置かれた湯呑みや、レクリエーションで使った折り紙が机の端に残っている様子など、「たった今まで人がいた」ことを示す小さな痕跡を残すよう撮影を調整したところ、温かみのある誌面に変わったのです。

イラストの使い分けで「1日の流れ」を描く

写真で表現しにくい「利用者との関わり方」は、イラストに置き換えるのも有効な手段です。1日のスケジュールを紹介するページでは、実写ではなくシンプルなイラストで「起床介助→食事→レクリエーション→入浴介助」の流れを描くと、個人情報の配慮を気にせず、かつ視覚的にわかりやすく仕事内容を伝えられます。イラストは外注する場合と、商用利用可能な素材サイトを使う場合があり、予算やスケジュールに応じて選ぶとよいでしょう。

採用パンフレット、掲載すべき項目チェックリスト

福祉施設の採用パンフレットで押さえておきたい項目は、次の通りです。

  • 法人の理念・ビジョン
  • 1日のスケジュール(スタッフ視点)
  • キャリアパス・昇進制度
  • 給与・待遇(基本給、賞与、福利厚生)
  • スタッフインタビュー(既存職員の声)
  • 設備・環境(休憩室、更衣室など職員向けの空間)
  • 採用試験のステップ・選考期間
  • 応募連絡先・QRコード

これらのうち、求職者が実際に決め手にしやすいのはスタッフインタビューとキャリアパスだと筆者は感じています。給与条件は求人サイトでも確認できますが、「入職後どう成長していけるか」「先輩たちがどんな言葉で仕事を語るか」は、パンフレットでしか伝えられない情報だからです。

採用パンフレット制作の費用相場と納期

福祉施設向けの採用パンフレット(A4・8ページ、中綴じ)の制作費用の目安は、次の通りです。

  • デザイン会社に依頼する場合:35万円〜80万円程度(デザイン・構成・撮影・印刷手配を含む)*6
  • フリーランスデザイナーに依頼する場合:20万円台〜40万円程度(デザイン・構成が中心で、撮影は施設側で手配するケースが多い)

納期は、企画から初稿までが2〜3週間、修正を含めた全体スケジュールで4〜6週間程度を見ておくと安心です。撮影のスケジュール調整や、利用者・家族への同意確認が必要な場合は、そのぶん前倒しで動き始めることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q. 利用者の後ろ姿なら、パンフレットに載せても大丈夫ですか?

A. 後ろ姿でも、体型・服装・活動内容の組み合わせから施設の関係者には個人が特定できてしまう場合があります。実務上は、後ろ姿であっても本人・家族への説明と同意確認を行っておくのが安全です。判断に迷う場合は、個人情報保護委員会の公式ガイダンス・FAQを確認してください。

Q. モザイクをかければ同意は不要になりますか?

A. モザイク処理は、利用者が写っている写真を加工したものであり、「写さない」こととは異なります。同意取得の必要性は、加工の有無によって変わるものではないと考えて対応するのが実務上の基本です。

Q. スタッフだけの写真なら、同意は不要ですか?

A. スタッフの写真掲載にも肖像権の配慮は必要です。ただし利用者と異なり、雇用契約の中で「広報物への掲載」が業務の一環として想定されている場合が多く、入職時に一括で同意書を取っておく施設が一般的です。採用時に「パンフレット・ホームページへの掲載」について同意を得ておくと、撮影のたびに個別確認する手間が省けます。

Q. イラストを使う場合、著作権や利用料金はどうなりますか?

A. イラストレーターへ個別に発注する方法と、商用利用可能な素材サイト(Adobe Stockなど)を利用する方法があります。無料のフリー素材を使う場合は、著作者表記が必要なケースが多いため、利用規約を必ず確認してください。制作会社やフリーランスデザイナーに依頼すれば、権利関係の手配も含めて任せられます。

まとめ:制約は、施設の物語を丁寧に語る機会になる

利用者を写せないという制約は、一見すると採用パンフレットづくりのハードルに見えます。しかし実際には、スタッフの手元、空間に残る生活の痕跡、イラストによる1日の流れの表現など、写真一枚に頼らずに施設の物語を伝える力を試される機会でもあるのです。

焦らなくて大丈夫です。まずは自施設で「パンフレット・ホームページへの掲載」に関する同意書運用があるかを確認するところから始めてみてください。そこから、利用者の存在を尊重しながら職場の魅力を伝えるパンフレットづくりが始まります。


1 出典:介護サービス職の有効求人倍率(2025年5月・原数値) https://note.com/blanket_hr_10/n/n6a0a5d5baafa 2 出典:厚生労働省の介護職員数推計に関する報道・解説記事 https://kaigo.jobtoru.com/tips/?p=2572 3 出典:個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスに関するQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000166287.pdf 4 出典:個人情報保護委員会FAQ「ホームページや機関誌に利用者の写真を掲載する場合、本人の同意が必要か」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq3-qb4-15/ 5 出典:肖像権使用同意書ひな形(ケアマネジメント支援サイト) https://caremanagement.jp/tools/detail/2681 6 出典:採用パンフレット制作費用の相場に関する解説記事 https://titan-art.com/10921

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